嘆きのミュージック・ホール
猥雑な横町アーケードの通りに、けばけばしい絵の具看板を飾り立てたストリップ劇場が建っている。「蛭ヶ谷ミュージックホール」と書かれたペンキの剥げかけた看板と、ところどころひび割れた薄汚れた壁が、なんとも時代めいた風情を醸し出していた。綾子と加奈子を連れた康介が裏口にあるドアから事務所へ入ると、そこには劇場オーナーの叔父がソファに腰掛け、ちょうど煙草を一服しているところだった。
「おぅ康介、電話もらって待ってたんだ。今度はそこの二人かい?」
康介が女を連れてくるのは、これが初めてではなかった。このストリップ劇場は、どこよりも過激なショーを見せるのがモットーであり、獣姦ショーや化け物じみた巨根黒人との白黒本番ショーなどで、その筋の者には有名な劇場なのだ。その為厳しいスケジュールのもと、過酷なショーを強要される専属ストリッパーの消耗は激しかった。そんな所に康介が連れてくる女たちは、オーナーの叔父にとっては、もっけの幸いなのである。
「ところで、この前、女を連れてきたのは半年前だったっけ?いまも頑張ってるの?」
一通り話が済んだ頃、康介は事務所の壁に貼られた古めかしいポスターを眺めながら、ぼそりと尋ねた。
「あぁ、あの女かい?たしか、もとは女弁護士だったて言ってたよな?ありゃいい女だったなぁ!ちょっと体の線が細かったんで獣姦ショー専門でやらせて大評判だったんだが、連日やらせている内に、精神に少しばかり異常をきたしちまったんで辞めさせたよ。なんでも今じゃ外国人労働者相手の「ちょんの間」で働かされてるって話だ」
じっと立たされたまま、康介とオーナーの会話を聞いていた母娘は、ここが二人が想像していたのとは違う、恐ろしい場所である事を察し身震いするのだった。
康介が帰ったあと、二人はオーナーに連れられて舞台に続く廊下へと歩いていった。
「ほら、ちょうど今ステージを終えて出てきたのが、うちの専属ストリッパーの喜美江だ。うちへ来る前は関西方面で大活躍していたストリッパー歴25年の大ベテランでな、今はうちで他のストリッパーの教育と面倒を見てもらいながら、時々ステージにも出てもらっているのさ。これから、おまえたちは彼女にストリッパーのイロハを叩き込んでもらうんだから、ちゃんと挨拶するんだぞ!ちょっと、ここで待ってろ!」
オーナーは喜美江と何事か話をすると、やがて二人で母娘の前に戻って来る。
「なんや、こっちはまだ子供やないの?可哀想になぁ・・あんたらどんな事情で、ここに来たのか知らんけど、この仕事は甘いもんやないでぇ!覚悟だけはしといてな!ほな、さっそくやけど、あんたらの体見せてもらおか?特に肝心なんが、まんことケツの穴や!そやな、まずはあんたから・・名前は綾子やったね、素っ裸になってその椅子の上に立つんや!そこでこんな感じにストリッパーの開陳ポーズやってもらおか?」
(くぅ〜〜っ!)
言われるままに、全裸になっておずおずと椅子の上にあがる綾子。
「なに、ぐずぐずしてんのや!さっさと今教えたように開陳ポーズせんかいなっ!まんこ晒すの恥ずかしがっててストリッパーは勤まらへんでぇ!」
(あぁ〜っ、いやぁ〜っ!)
喜美江の罵声を浴びて、綾子は惨めな開陳ポーズをとらされる。
「ほな失礼して、とくと見させて頂くでぇ!」
綾子の股間に身を仰け反らせて顔を突っ込む喜美江。その様子を見て加奈子は真っ青になってぶるぶる肩を震わせている。次は自分も同じように調べられるのだ。
「ちょっとオーナー・・この奥さんたら、いいケツしてはるわ!ケツの穴も調教次第で使い物になりそうやでぇ!・・・こりゃ、化け物チンポのジミーと組ませて『アナル刺し』が出来るかもしれへんで!」
「おい、本当かい?あのジミーのペニスじゃ、まともにまんこ使っても本番ショー出来るのは、おまえと沙也加くらいだって言うのに・・・本当に『アナル刺し』が出来るんなら、これは良い呼び物になるんだが・・」
「ストリッパー歴25年の私の目に狂いは無いでぇ!ふふふ・・奥さん、あんたはジミーと『アナル刺し』の芸が出来るように、私が腕を振るって仕込んだるさかい安心しぃ!」
アナル刺しと言う言葉に震え上がる綾子。
「あらま、噂をすればなんとかや!見なはれ奥さん、いまステージから降りてきたのが、いずれあんたとコンビになる、化け物チンポのジミー様やでぇ!」
けたけた笑いながら喜美江が指さす方を見た綾子は、失神せんばかり悲鳴をあげた。
「ひぃ〜〜〜〜〜〜〜っ!」
ステージ脇のドアから出てきた男は、まるでゴリラのような体付きの黒人である。そしてその股間には、喜美江が化け物チンポと呼ぶだけはある醜悪なばかりに巨大な、どす黒いペニスが垂れ下がっているのだった。