黒川屋敷の奥座敷では、床の間の前に黒川家の当主剛蔵とその娘である長女の玲子が座っている。そしてその前には、桜井家の3人の女が敵とも言える黒川家の人間の前で、あろうことか全裸を晒さねばならぬ屈辱に身を震わせ立っていた。
「お、お待ちください!話が・・話が、違いますわっ!そ、そんな黒川家の嫁になるなど・・出来ようはずがありません!ば、馬鹿な事は・・おっしゃらないでっ!」
40歳を過ぎてくたびれかけた肉体を、黒川家の者に晒している強烈な屈辱感に泣きそうな顔で抗議する雅子。娘の翔子と美穂も羞恥と屈辱にわななきながら今にも泣き出さんばかりである。
「うふふ・・いやなら無理にとは言わないわ!桜井家が破滅しても私たちは全然困らないもの!そのまま、素っ裸でお帰りになってもかまわないわよ!」
(うぅっ!)
玲子は冷たい眼差しを女たちに注ぎながら、唇を曲げて微笑んでいる。桜井家を破滅させる事に関しては、剛蔵に劣らず執念を燃やしており今回の策謀も玲子が力を貸した所が多いくらいだ。そんな玲子にすべて任したまま剛蔵は黙って、桜井家の女たちの惨めな全裸姿を悦に浸って眺めているだけだ。
「あぁ〜〜っ、私には夫がいますっ!そ、それに翔子だって婚約者がいますわっ!み、美穂は・・まだ中学生の子供なのですっ!」
雅子は悲痛な声で訴えた。
「あら、そんな事を言ってる場合じゃないでしょ?まぁ、法律的には問題もあるかも知れないけど、そんなことあなた方には関係ないのよ!」
ぴしゃりと決めつける玲子。
「そ、そんな理不尽なっ!」
雅子は怒りを顔に表して玲子を睨み付ける。
「なにもそんな、みっともない四十路女の裸晒して怒ることないでしょ?ふふふ・・」
(くぅ〜〜っ!)
玲子の嘲笑に、真っ赤になりながら惨めさに唇を噛みしめる雅子。そしてついには桜井家の女たちは、強制的に黒川家の嫁となる事を受け入れさせられるのだった。
「うふふ・・これで話は決まったわね!これからお婿さんにお引き合わせするけど、その前に、あなた方にも準備が必要よね?色々とこれから、あなた方の面倒を見てくれる人を紹介するわ!」
ゾッとするような微笑を浮かべながら玲子が座敷の外へ声を掛けると、一人の中年女が襖の陰から現れるのだった。
「ひぃ〜〜〜〜〜っ!あ、あなたは・・加代さんっ!」
雅子は驚きのあまり絶叫した。翔子と美穂も思いも掛けぬ加代の登場に狼狽の色を隠せない。加代は桜井家の使用人として20年近く仕えていたが、3年ほど前に桜井家の金を使い込んだのがばれ、激昂した雅子が警察に突き出したうえ、当然解雇した女なのである。
「うぅっ!ど、どうして・・あなたがこんな所に・・」
よりによって、こんな惨めな場面で加代と再会することになるとは・・雅子は絶句した。
「おほほ・・雅子奥様、お久しゅうございますわ・・・」
「あれからもう半年になりますのね。あの日の事は今でもよ〜く覚えておりますのよ。警察だけは許して欲しいと泣いてお頼み申し上げましたのに、奥様は無慈悲にも私を警察にお引き渡しになられたのでございます。あれから私がどんな苦労をしてきたか、優雅にお暮らしになってた奥様には想像も、おつきにならないでございましょうね。でも幸いに、そちらにおられる玲子御嬢様にお声をかけて頂き、今では黒川家にお仕えさせて頂いているのでございますわ」
自分の罪など棚に上げ、桜井家に逆恨みする加代は、かつて仕えていた雅子や娘たちの惨めな姿を目の当たりにして歓喜に打ち震えていた。
「だ、だって・・あれは恩を仇で返すような事をした、あなたが悪いのですわ・・」
雅子は、加代のような女にだけは絶対に見られたくない姿を晒している屈辱に声を震わせる。
「ねぇ、雅子さん、以前はあなた方の使用人だったかもしれないけど、加代さんは今では歴とした黒川家の使用人よ。これからあなた方の御世話をする人なんだから口の利き方には気をつけてちょうだいね」
冷たい声で玲子が注意する。加代は、ざまぁみろと言わんばかりの顔で、ニタニタと笑っているのだ。
「うぅ・・・」
雅子は口惜しさに唇をかんだ。素っ裸を晒し羞恥と屈辱に震える雅子らを小気味よげに見やりながら加代が声をかける。
「それでは奥様、お嬢様方、初夜のお仕度をさせて頂きますので、控えのお座敷へ御案内させて頂きますわ」
これから、誰とも分からぬ相手と強制的に結婚させられるのだ。夫ある身の自分もさることながら、翔子には愛するフィアンセがおり、美穂に至ってはまだ幼さない子供同然なのである。
(あぁ〜〜っ!あなた・・あなた助けてぇ〜〜っ!)
雅子は、こんな事になるとも知らずに涙を浮かべて見送ってくれた夫を思い、心の中で狂おしく泣き叫ぶのであった。
恥辱の再会