由美子と智恵が娼婦登録を済ました翌日、助役の溝口がアパートを訪れた。卓台を挟んで由美子と智恵が青ざめた顔で座っている。あの悪夢のような娼婦登録の後、智恵は由美子の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。少女にとって余りにも残酷な体験だったのだ。そして今、溝口を前にして母と娘は不安と恐怖で、お互いの手を握り合ったまま、じっと目を伏せている。
「なに、今日は登録証が出来てきたんで、それを持ってきたのだよ」
溝口は、そう話を切り出すと背広の内ポケットに手を入れた。
「ははは・・今日は8人分の登録証を配って歩く役目を仰せつかってしまって、久しぶりに朝から良く歩いた」
溝口は、ごそごそと手探りで2枚のカードを取り出すと、卓台の上に差し出した。
「おっと、失礼・・これじゃない・・これは相原さんちのだな・・あぁ、これだ、これだ・・」
改めて2枚のカードをポケットから取り出すと、由美子と智恵の前に差し出しす溝口。
(くぅ〜〜〜っ!)
卓台に並べられたカードを見て、由美子と智恵の顔が屈辱に歪んだ。顔から火の出るような恥ずかしさの中で、顔見知りの職員たちに全裸姿の写真を撮影された時の屈辱が蘇ったばかりか、C級娼婦の惨めさを見せつけられたのである
「あぁ、まだ説明してなかったが、C級娼婦だけ登録証写真は全裸姿と規定されているんだよ。それと街娼地区では、認められた衣服以外の着用は禁止されておってね、基本的に全裸で客引きを行う決まりになっているから、そのつもりでいてくれたまえ!」
(ひ〜〜〜っ、そ、そんな・・あんまり惨めすぎるわぁ〜)
恥辱に歪む母娘の顔を楽しむ為に、わざとB級娼婦の登録証まで出して見せた溝口は、満足気に、にやにやと笑いながら更に言葉を続ける。
「そうそう、相原さんと言えば、宮下君と同い年で高校ではクラスメートだったそうだねぇ。それに娘さん同士も同学年と聞いているが、この二人は今日から客を取って頑張っているよ!ちょうど今、虻川市の農業技術センターに外国から研修に来ておってね、彼らの息抜きに楽しんで貰おうと、相原親子に彼らを斡旋してやったんだ。ふふふ・・・君たちにも今晩から早速、街娼地区へ移って客を引いて貰う事になるから、相原親子に負けないよう頑張ってくれたまえ!」
「うぅっ、そんな、今夜からなんて・・・もう少し・・もう少し・・時間をください・・お願いしますわっ!」
悲痛な面持ちで、土下座して哀願する由美子。
「そんな事を私に言われても困るんだよ。これは市で決められた事だからねぇ、明日からはこのアパートにも住めないんだよ。それに先に延ばした所でどうなるものでもあるまい。C級娼婦と云えば、それこそ死に物狂いで客を取らないと、娼婦税を納めたら食べていけない事くらい分かっているはずだよ。そんな事より宮下君、君は母親なんだから娘に客を誘う時の艶っぽい腰づかいでも教えてやりたまえ!くくくっ・・・ではまだ届け先が残っているから、これで失礼するよ。夕方には街娼地区まで送る車を差し向けるよう手配をしておくから宜しく頼むよ!」
号泣しながら取り縋る由美子を振り切るように溝口は表に出た。
(ふふふ・・・C級街娼地区とは、市長たちも悪辣な金儲けを考え出したもんだ。上流中流ばかりか薄利多売で下流階層からも金を集めようって云うんだからな。市の税金収入とは名ばかりで、市長や顔役連中のポケットマネーに流れるんだから、こんな甘い汁は滅多になかろうて。まぁ俺も、その甘い汁のおこぼれを、たんと吸わせて頂くとしよう。くくくく・・・・)
午後の日射しに目を細め、ほくそ笑みながら待たせてあった車のドアを開けた。
(さて、今日の最後は相原翔子の家か、初めて斡旋された客が黒人男で、さぞかし驚いたに違いない。いひひ・・・)
「北本君、ここらで喫茶店にでも寄って一服しようじゃないか!今頃は相原親子も黒人相手に尻をふってる最中だろうよ」
運転手の北本は、苦笑いして頷くと車のエンジンをかけた。走り出した車の窓外を、溝口はぼんやり眺めながら、相原翔子と娘が黒人に抱かれる痴態を想像して、にたにたと笑っていた。
地獄への登録証