ねちっこい蛭のような唇と舌が由美子の体中を這い回っていた。むっと盛り上がった白い双臀から背中一面に唾液の跡が、ランプの灯りでぬらぬらと照り輝き、まるで蛞蝓の這った後のようである。由美子は、そのおぞましい感触に歯を食いしばって耐えている。
源助に言われた部屋の襖を開けた瞬間、由美子は心の中で、ひ〜〜っと叫んだ。今夜の客とは、由美子が最も忌み嫌っている男だったのだ。でっぷりと太った体、弛んだ肉が腹の上に被さっている。頭は禿あがり、ぎとぎとと脂ぎった顔が嫌らしい笑みを浮かべて由美子の裸身に視線を注いでいるのだ。その男の名は岩淵長造。由美子の住む蛭川市の市長であった。
この空き家には、岩淵を筆頭に市の助役から、警察署長、病院長、商工会会長、土建業組合長、果ては裏社会の親分衆に至るまで、いわば蛭川市の顔役の面々が密かに出入りしては夜毎の淫楽に耽っているのだ。またここに通って来る女達も、いずれもこの蛭川市の住人である。女達に共通しているのは、誰もが美貌と見事な肉体の持ち主である事の他、独身の一人住まい
か、一人で暮らしている未亡人、或いは母娘の母子家庭と云う点である。更にはどの女も何かしらの理由で日々の生活に困窮している者ばかりなのだ。岩淵らは、そんな女を捜しては住宅の提供、税金免除、公共料金の立て替えなどを申し出、その見返りに顔役グループ専用の娼婦となることを承諾させているのだ。
宮下由美子も、そんな不幸な女の一人であった。一年前に多額の借金を抱えた夫を交通事故で亡くした。市役所に勤めていた由美子であったが、その収入で追いつくような借金ではなかったのである。家も抵当で差し押さえられる事となり娘の智恵と二人で途方に暮れ、由美子は心身共に疲れ果てていた。そこへ目を付けたのが市長の岩淵である。岩淵は以前から由美子の美貌と体に淫欲な眼差しを注いでいたのだ。ある年の忘年会では酔った振りをして由美子の体を、いやらしく撫で回した事もある。相手が上司とも言える市長に対し由美子が抗う事が出来るはずもない事を知った上の卑劣な行為であった。
そんな岩淵を由美子が忌み嫌うのは当然である。そんな由美子にある日の夕暮れ、市の助役が信じられないような話を持ってきたのだ。それは助ける代わりに娼婦になれとの残酷な話だった。あまりにも酷い申し出に、一度は断りかけた由美子の胸に浮かんだのが娘の智恵であった。智恵の為なら自分はたとえ地獄に墜ちても構わない。我が身が汚れ果てても娘との生活を守れるのならば。そして日も暮れた頃、いやらしい笑みを浮かべながら返事を待つ助役の前で、ついに由美子は娼婦となる事を承諾していたのである。
こうして由美子の淫肉地獄が始まった。昼間は市役所で働き、週に4回は夜になると町外れの空き家へ出かけて市の顔役達に抱かれるのだ。岩淵たちは電灯も灯らぬ空き家での淫靡な行為に酔いしれていた。ほの暗い灯油ランプの揺らめきと匂い。そこには何かしら変態的とも猟奇的とも云える異常な興奮が伴うのであった。ある親分衆に紹介された源助と云う、以前は女衒であった初老の男を娼婦たちの世話役にしたのも、空き家での淫宴に興を添えた。かくして雨戸の隙間から漏れ出る女達の忍ぶような淫ら声が、夜毎に闇に包まれた荒れ庭の枯れ草をそよがせる事となったのだ。
悪徳の肉宴
由美子の体の上で岩淵の弛んだ腹が、ゆさゆさと揺れている。どんなに忌み嫌っていても由美子にとっては、逆らうことの許されぬ男だった。岩淵に舌を吸われても、由美子は自ら舌を差し出し、ねっとりと絡みつけ激しく相手の舌を貪り吸う。だらだらと岩淵の唾液が絡め合った舌を伝わり由美子の喉奥まで流れ落ちる。弱肉強食の哀しさに泣きながら由美子はこくりと、そのおぞましき男の唾液を飲み込むのであった。
「うひひ・・ここしばらくで、すっかり娼婦らしくなったな・・えっ、由美子?」
由美子を見そめてから、ついにその肉体を思う様に弄ぶ事が出来るようになった岩淵は、由美子が相手の夜には一層ねちっこく媚肉をいたぶるのが常である。
「あ、ありがとうございます・・」
由美子の目から悔し涙が零れんばかりに溢れた。
「これからも、俺のお陰でこの街に生きていられる事を忘れるなよ!くくく・・どれ、隣の様子でも覗いてみるか・・」
岩淵は、哀れな獲物に覆い被さったまま、隣の間の襖を開く。今夜のもう一組は市の助役が年若い女の肉体を堪能している最中であった。
「おい!溝口君、そちらの具合はどうだね?」
「えへへ・・市長この娘の味、なかなかの美味でございますよ!如何です、そろそろ女を交換致しますか?」
鼻息を荒げて女の腰を抱きながら助役が慇懃に返答する。
「ふふふ・・そうだな、それに今夜は由美子に、今後の市の方針を説明せねばなるまいて・・溝口君よろしく頼むよ」
そう言うと岩淵は、最後とばかりに腰を荒々しく突き動かした。由美子の口から押し殺した喘ぎ声が絶え間なく絞り出され、白い肉体の無念にも淫らに蠢く姿がランプの淡い灯りに照らし出される。
「由美子、娘はおまえが娼婦であることは知ってるんだろうな?」
腰を動かしながら、唐突に岩淵はそう言うと由美子の顔を覗き込んだ。
「は、はい・・存じております。」
(今さら、どうして、そんなことを・・)
由美子の胸に、何とも言えぬ不安がこみ上げる。玄関先で感じた不吉な予感が黒猫の姿と共に脳裏に蘇った。
「ふふふ・・それなら好都合だ。あとで助役から話があると思うが、おまえたち母娘がこの街で生きていく為に重要な話だからな。たっぷりサービスしながら聞くがいい・・くくく・・」
どくどくと由美子の子宮に精液を吐き出し終えると、岩淵はそう言い残して、ようやく由美子の体から離れる。得体の知れぬ不安におののく由美子の秘肉から、どろりと白い精液が流れ落ちた。