玲子は県会議員である夫や子供たちと、黒川屋敷から、さほど遠くない別宅に暮らしているが、玲子自身が不動産会社の社長として忙しく働いており屋敷に訪れるのは週に1〜2回ほどであった。そして雅子たちは玲子が屋敷に訪れる度に、いつも戦々恐々の思いを抱くのである。

朝から好天に恵まれたある日の早朝、玲子は一人の男を連れて黒川屋敷を訪れた。あいにく剛蔵は、ある国会議員のパーティに招かれて留守であったが、今日の目的は剛蔵の顔を見る事ではないのだ。屋敷に着くや、玲子は女中に雅子ら3人を座敷へ連れてくるよう命じるのだった。

不安に怯えながら、雅子、翔子、美穂の3人は玲子のいる座敷の中へ入ってゆく。そこには玲子が冷酷な微笑みを浮かべて座っており、3人が来るや、そうそうに連れてきた男を紹介するのであった。

「ここにおいでの方は、刺青師の鹿沼宗源さんよ。今日はあなた方に刺青を彫って頂くためにお呼びしたの。」

(ひぃ〜〜〜〜〜っ!)

女たちは、刺青と聞いて震え上がった。

「うふふ・・・なにも怖がることはないわよ!刺青と言ったって弁天様みたいな絵を彫る訳じゃないわ。ほんのちょっと文字を彫るだけよ。これはあなた方が黒川家の嫁になった覚悟の程を試す意味合いもあるの。どう?あなた方に黒川家の嫁としての自覚はおありかしら、ねぇ雅子さん?」

玲子は射すような目で雅子を見つめる。

「は、はい・・・わ、わたしたちは・・黒川家の嫁として勤めを果たさせて頂く覚悟を・・き、決めておりますわ!」

雅子たちには、否応なくそう答えるしか術はなかった。

「そう、それを聞いて安心したわ!それじゃ異存はないわね?では宗源さん、さっそく取りかかって頂けます?」

女が肌身に刺青を施される事が、どんなに尋常ならざる事かなど気にする風もなく話を進める玲子に、恐怖を感じて身震いしている雅子たち。

(いやよ、い、刺青なんて・・あぁっ、絶対にいやぁああ〜〜〜っ!)

「それじゃ、雅子、翔子、美穂の順でお願いしますわ!私は別のことで準備がございますから失礼致します。終わったらお呼びになってくださいね。すぐに参りますから」

宗源にそう言い残すと、楽しそうな笑みを浮かべてさっさと出て行く玲子。

「それじゃ、あんたから始めるとするか。そこに横になって股を開いておくれ」

そう言って雅子を見る宗源の目は、まるで蛇の目を思わせる冷酷な力を帯びていた。その不気味さに雅子はゾクッと背筋をふるわせる。そして蛇に睨まれた蛙のように、抗う気力は消え失せ観念して応接台の上に横たわるのであった。どのみち黒川家に逆らうことなど許されようはずもないのである。

「途中で動かれたら仕事が出来ないんで、縛らせてもらうよ」

宗源は職人らしい口数の少なさで淡々と、雅子を後ろ手に縛り股を裂かんばかりに両足を広げて応接台の脚に縛り付ける。

(あぁ〜〜〜っ!ほ、ほんとに・・刺青されるのね・・)

もう雅子は俎板の上の鯉である。覚悟を決めてじっと目を閉じるしかなかった。

桜井家の女たちが刺青を彫られている座敷から漏れ出す、獣じみた苦悶の呻き声と悲痛な号泣に、屋敷の女中たちもぞっと鳥肌を立てて身震いしている。すでに雅子と翔子の刺青は完成し、宗源は、ときおり額の汗を手拭いで拭いながら最後の美穂の仕上げにかかっていた。

刺青を彫られる苦痛に、美穂が大股開きの内股をひくひく痙攣させて呻きのたうっている傍らでは、雅子と翔子が号泣している。

(あぁ・・これで、もう永遠に黒川家から逃れる事は出来ない・・・)

いつかは、この地獄から抜け出せる日が来るかもしれない・・そんな儚い望みも、体に刻み込まれた残酷な刺青によって、完全に打ち砕かれてしまったのだ。桜井家の女3人に残された道は、黒川家の嫁として永遠の隷属に泣いて生きる事だけだった。
「まぁ、これはお見事ですわ!」

刺青が完成した知らせを受けて、再び座敷に現れた玲子は感嘆の声をあげた。そこには桜井家の3人の女が泣き顔のまま立たされており、その陰毛を剃り上げられた下腹部には、黒川家に隷属する嫁である証が刻み込まれているのだ。玲子の目に、黒川家の文字とそれぞれの主人である男の名と共に、その嫁である事を証した文字が鮮やかに飛び込んでくる。

「ほら、御嬢様に尻の刺青もお見せするんだ!」

宗源は、厭がる美穂を引きずり倒すと、強引に玲子の方へ尻を向けさせた。美穂の可憐な白い尻には黒々と大きく美穂という文字が彫り込まれているのだ。

「あぁ、素敵ですわ!」

思わず喜びの声をあげる玲子。

「うふふ・・・これで、あなた方も晴れて黒川家の嫁と名乗る事が出来るわねぇ!その涙は嬉し涙と受け取ってかまわないのかしら?」

玲子は絶望に顔を歪めて泣いている女たちに、意地悪な嘲笑を浮かべて尋ねるのだ。

「うぅっ・・」

惨めな刺青を彫られた母と娘の全裸姿を、こともあろうに嘲笑を浮かべる黒川家の長女に、じっくりと鑑賞されているのだ。桜井家の女たちは火を噴くような屈辱で気が狂いそうであった。

「あら、黒川家の嫁になるのに不服でもあるのかしら?てっきり喜んでくれると思っていたわ!」

気分を害したように声を荒げる玲子に、雅子は慌てて答える。

「い、いえ・・不服だなんて滅相もございませんわ!こ、こうして黒川家の嫁としての証を与えてくださり・・・さ、桜井の女として・・身に・・身に余る光栄でございます・・」

唇をふるわせながら、そう言うと辛そうに顔を歪める雅子。

(くぅ〜〜〜〜っ!口惜しい・・口惜しいわぁああ〜〜〜〜っ!)

雅子、翔子、美穂の文字が、それぞれの白い尻肉と共にぷるぷると屈辱に打ち震えるのであった。
刺青師に謝礼を手渡し屋敷から送り出したあと、座敷に戻った玲子は満面の笑みを浮かべて言った。

「さぁ、これであなた方は晴れて黒川家の嫁になれるのよ!さっそく神社へお参りして嫁入りの報告をして頂くわ!」

この地方では、嫁入りの決まった女は神社へお参りして報告をする風習があるのだ。

「黒川家に嫁ぐからには、それなりの格式を持って参拝して頂かないと困るけど、今の桜井家では、それも無理でしょうから、黒川家の方で準備させて頂いたわ!それじゃ早速出かけるわよ!」

急に参拝と聞いて狼狽する雅子たち。

「ま、待ってくださいませ!まだ私たちには、そんな準備が出来ていませんわ!」

「あら、あなた方は何も準備する必要はないのよ!体ひとつで嫁ぐんですもの、神社への御報告参りも、あなた方の体だけで宜しいのよ!うふふふ・・・」

(ひ〜〜〜〜っ!ま、まさか・・このまま裸で・・・)

「表に車を待たしてあるんだから、ぐずぐずしないで私に付いてきてちょうだい!」

「あぁーーーっ!待って、待ってください!そ、その前に服を・・服を着させてくださいまし〜〜っ!」

泣きそうな顔で玲子に取り縋る女たち。

「あら、本来なら桜井家がやるべき参拝の準備をしてやったと言うのに、その上服まで黒川家が面倒見無ければならないの?」

(うぐぅ〜〜〜〜〜っ!)

玲子の嘲笑を込めた言葉に返す術もないのだ。こうして無理矢理、裸のまま屋敷の表に連れ出された3人は、目の前にある車を見て絶句した。

「うふふ・・・ご免なさいね、こんな車で。本当は黒塗りのオープンカーが良かったんだけど見つからなかったのよ!それに生憎と黒川家の車も全部出払ってて、やっとうちでやってる建設会社で一台空いてるのを見つけたの。まぁ、身分相応って言うでしょ?贅沢言える立場でもなし、これで我慢してちょうだい!」

そこに停めてあるのは、建設現場で使う小型トラックであった。そして荷台には雅子たち3人の名前が染められた昇り旗が、パタパタと風に翻っているのだ。

「ねぇ、御覧になって、ちゃんと神社参りの昇り旗まであつらえたのよ!これでも結構費用が掛かったんだから車のことくらい目をつぶってくれるわよね?うふふ・・さぁ、この車を素敵なオープンカーだと思って、神社までの道中、町中の皆さんにお祝いして頂くと良いわ!」

そう言ってけらけら笑う玲子。

(ひぃ〜〜〜〜〜〜〜っ!いや、いやよ・・こんなの絶対にいゃあ〜〜〜〜〜〜っ!)

美穂と翔子は、その場にしゃがみ込んで号泣し、雅子は呆然となって立ちつくしている。

「さぁ、ぐずぐずしてたら日が暮れてしまうわ!さっさと荷台に上がってちょうだい!ちゃんと黒川家に嫁ぐ花嫁らしく、堂々と町の皆様に見て頂くのよ!」

そうして、とうとう女たちは荷台に乗せあげられるのだ。

「じゃ、出発してちょうだい。せっかくの御披露目だから、時間をかけてゆっくり走ってあげてね。私も後から出発して、あなた方が着く前に神社で待ってるわ!」

玲子が運転手に声をかけると、トラックはゆっくりと走りだす。

(うふふ・・・たっぷりと桜井家の女の生き恥を晒すが良いわ!)

唇を曲げて微笑みながら、玲子はトラックを見送るのであった。

桜井家の女たちにとって、神社への道程は、死に勝る屈辱の道程であった。3人の無惨な全裸姿に、町行く人々の好奇の視線が集中し、嘲笑する女たちや、女の裸に大喜びの歓声をあげる男たちの心ない声が3人の耳に飛び込んでくる。

トラックは本来なら10分ほどの道程を、ゆっくりゆっくりと、桜井家の女たちを晒し物にしながら進んでいき、神社に到着した時には一時間後であった。待ち受けていた玲子は、意気揚々と全裸の3人を引き従えて拝殿まで歩いて行く。こうして黒川家が桜井家を完全に征服したことを町の皆に知らしめるのだ。

神社への婚礼報告を済ますと、玲子は3人を拝殿前に並ばせ記念写真を撮らせる。ここでもわざとゆっくり時間をかけるのだ。周囲には大勢の町民がざわざわと集まり、惨めな刺青をされて全裸で参拝する桜井家の女たちを、ひそひそ声で何事か囁き合いながら興味深そうに眺めている。

「ちょっと見てよ・・あれ桜井家の奥さんと娘さんじゃないの・・可哀想に、どんな罰があたって、あんな惨めなことになったんだろうねぇ・・」

「なんでも桜井家を助けてもらう為に黒川家に嫁入りを申し出たって話だよ・・あの奥さんには歴とした旦那さんがいるし、末の娘はまだ12歳だって言うじゃないか・・いくら家を救うためとは言え、ああして母娘そろって嫁入りを申し込むなんて呆れるねぇ・・」

「御覧よ、あの恥ずかしい刺青を・・・黒川家の嫁にして貰う為に、自分から彫ったそうだよ・・・あの奥さんも、あの歳になって人前に、あんな浅ましい素っ裸を人前に出すなんて・・人間、落ちぶれたくはないもんだねぇ・・」


奥さん連中の意地悪いひそひそ話が、容赦なく雅子たちの耳にまで聞こえてくる。

(うぅっ!このまま・・このまま死んでしまいたいわぁあ〜〜〜〜〜っ!)

これほど残酷な晒し物は無かった。まだ若い美穂と翔子が全裸を衆目に晒さねばならぬ惨めさもさることながら、四十路の女が体型の崩れた肉体を、余す所なく衆目に晒さねばならない雅子の恥辱は想像を絶するものであった。しかもこの歳で陰毛を剃り上げられ、惨めな刺青まで彫られているのだ。

そんな桜井家の女の姿を、多くの見物人らが無情にも笑いながら携帯のカメラで撮影している。その写真もすぐにメールでばら撒かれて嘲笑されるに違いなかった。

(あぁ、もう一生、私たちは黒川家の嫁としてしか生きる道は無いのね・・・)

桜井家の女たちは、気の狂うような羞恥地獄の中、底知れぬ絶望の闇に吸い込まれていくのであった。


雅子の夫が首を吊って自殺しているのが発見されたのは、その翌日のことだった。妻や娘たちの無惨な姿を見てしまったショックが、どれほど計り知れないものであったかは想像もつかない。こうして桜井家は無惨にも崩れ去り、残された雅子、翔子、美穂の3人は花嫁と言う名の肉奴隷として、生涯黒川家に仕えて生きることになったのである。
          -おわり- 



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永遠の呪縛