ブラックリストの女


 女性雑誌の編集部から依頼されていた原稿を書き上げ、ほっと溜息をついて栗原百合子はデスクの上の置き時計に目をやった。もう夜中の1時を廻っている栗原百合子は大学の助教授である。専門は社会学で男性社会の不合理を説き、男性の下でいかに女性が抑圧され不利益を被っているかを主張する論文はマスコミでも取り上げられ29歳の若さと美貌の持ち主である事も手伝って世間の関心を集めていた。特に女性の間からは百合子を女性解放運動のリーダー的存在として支持する者も少なくない。

(あら、もうこんな時間だわ、明日も早いし、そろそろ寝なきゃね。)

ガウン姿でデスクの椅子から立ち上がると、散らばった原稿をかき集めファイルケースに納めた。訪問者を告げるドアのチャイムが鳴ったのは、ちょうどその時だった。

(えっ?こんな遅い時間に誰かしら?)

不審に思いながら、ドアの前まで歩いていく。

「あの、どなたでしょうか?」

一人暮らしの百合子は、予期せぬ深夜の訪問者へドア越しに恐る恐る尋ねた。

「警察の者です。夜分、申し訳けありませんが、お知り合いの杉原由美子さんの件で至急お話を伺いたい事がありまして。」

杉原由美子の名を聞いて百合子は驚いた。由美子は大学での教え子の一人である。真面目で優しい娘でプライベートでの悩みを打ち明けたりと普段から百合子を慕っていた。

「えっ!由美ちゃんに何かあったんですか?」

百合子が慌ててドアの鍵を外すと同時に荒々しくドアが押し開けられ黒いスーツ姿の3人の男がどかどかと踏み込んできた。左右から2人の男が逃げられないように百合子の腕を鷲掴みにする。年嵩のリーダー格の男が百合子の頭から足下までを蛇のような冷たい視線で見回しながら落ち着いた声で言った。

「栗原百合子だな!国家保安部の者だ!反国家思想取締法違反の疑いで、お前を連行する!」

突然の出来事に百合子は何が何だか判らぬままに、激しく抵抗した。

「ちょっと待ってよ!あなた方は一体何なの?国家保安部だの何だのって聞いた事が無いわ! 腕を離しなさい!大声あげて警察を呼ぶわよ!」

暴れて腕を振り解こうとするが屈強な男達にとっては赤子同然である。

「ふふふ・・何もわかっとらんようだな!警察なんぞ呼んでも無駄だよ。すでに警察の方に話は通してあるし、そもそも我々国安には国から特別な行使権が与えられてるんだよ。まぁ、決して表に出ることの無い、裏の保安組織だから知らんのも無理ないがね。」

「あなた達、気でも狂ってるんじゃない?そんな馬鹿げた話を信じられると思うの! 」

更に抵抗して暴れようとする百合子の頬にバシッと音を立てて男の平手が打ち据えられた。

「あっ!」

いきなり頬を打たれたショックで百合子の体から急速に力が抜けていく。

「そんなに騒ぎ立てたんじゃ、夜中なのに近所迷惑だろ?それとももっと痛い目に遭わなきゃ 我々の言う事が聞けないかね?」

凄みのある声で話しかける男に百合子は、得体の知れぬ恐怖を感じぶるぶる震え出した。

「さぁ、一緒に来て頂けますね!」

男は穏やかな口調に戻ったが、相変わらず蛇のような目で百合子をじっと見つめている。

「わ、わかったわ、とにかくお話は伺います。着替えますから腕を離してください!」

底知れぬ不安に胸を締め付けられながら百合子は答えた。ガウンの下はパンティー一枚の姿である。

「その必要はありません、今の格好で十分ですよ。」

右腕を掴んでいた男が初めて口を開いた。

「そ、それは、どういう意味ですの?」

まさかガウンを取れば裸同然の姿で連れて行かれるとは思ってもみなかった百合子は震える声で尋ねた。

「ふふふ・・・行けば分かる事だが、むこうじゃ、そんなもん必要無いって事さ。それじゃ、時間も遅くなったし、そろそろ出掛けるとしますか。」
リーダー格の男はそう言うと向きを変えてドアの外へと向かった。

「待って、待ってください、何時戻って来れるの?遅くなるようなら連絡しなきゃならない所もあるわ。」

さっさと出ていく男に縋るように声を掛ける。

「何時になるかは、あんた次第だが、長いこと戻って来れないと覚悟しといた方がいいな。後の事は我々で調整するから心配無用だよ。」
百合子は目隠しをされると3人の男達に囲まれるように車に乗せられた。リーダー格の男がタバコに火を点けながら運転手に合図すると、車はゆっくりと夜の闇の中にすべり出して行った。


            
                                *******


「ぎゃあーーーーっ!」

保安部の取調室に百合子の、けたたましい悲鳴が聞こえ始めてから、もうどれくらい経つだろう。栗原百合子は今、ガウンはおろか唯一身に付けていた小さなパンティーさえ剥ぎ取られて、素っ裸にされている。その上両足を大きく左右に裂かれままYの字型に逆さ吊りにされているのだった。両手は後ろ手に縛られ百合子の艶やかな長い黒髪は床に垂れていた。苦痛に身悶える度に髪の毛が床に擦れてさらさらと小さな音を立てている。百合子の背中から尻にかけての幾筋もの無惨な鞭痕が痛々しい。

「ふふふ・・・、まったく、強情な女だな!だが、是くらい手強い方が俺達にとっても責めがいがあるってもんさ」

そう言って男は百合子のふっくらと盛り上がった尻たぶに狙いを付けると思いっきり鞭を打ち据える。

「うぎゃーーーっ!」

百合子の張り裂けるような悲鳴が取調室の壁を突き抜けるように響き渡った。先程から片隅の椅子に腰掛けて、鞭打たれる度に百合子の全身が痙攣するように打ち震えるのを冷酷な笑みを浮かべて楽しそうに眺めているのは、百合子を連行してきたリーダー格の男で名前を黒坂と言う。

「あぁーっ、どうして・・・私が、こんな目に・・遭わなければならないの!・・」

百合子が息も絶え絶えに泣きじゃくりながら男達に訴える。

「だから、さっきから何度も言ってるだろ?オマエが日頃、大学やマスコミで吹聴している女性解放論ってやつが、我が国を滅ぼす危険思想なんだよ。現にオマエをリーダーにして全国的な女性解放組織を作ろうって動きもあるんだ。そんな活動を徹底的に封じ込めるのが俺達の仕事って訳さ。」

黒坂はタバコに火を点けるとゆっくり煙を吸い込みながら逆さ吊りと鞭の苦痛に顔を歪めて泣きながら小さくブラブラと揺れ動いている百合子の顔を面白そうにじっと見つめた。

「そ、そんな理不尽な話って、それにそんな解放組織の事なんて私、何も知らないわー!」

百合子は必死に訴える。

「ふん、理不尽に思えようが何だろうが、災いの芽は小さなうちに摘み取るのが肝心なんだよ、オマエが出した本をバイブルにして解放運動を起こそうとしてる馬鹿者共が居る以上、何も知らないじゃ、済まされないんだよ!」

黒坂はそう言い終えるとタバコの煙を百合子の顔にふーっと吹き付けた。

「あぁー、そんな馬鹿な事って、お願い、もう降ろしてっ!」

逆さ吊りの苦痛はもう限界に達しようとしている。体がバラバラに千切れそうな感覚と共に頭に血が溜まって意識も朦朧としてくる百合子だったが、これまでに自分が築きあげてきた理想を守り抜いてみせると言う強い意志と、こんな連中の言いなりになってたまるかと言う人間としてのプライドが、かろうじて今の百合子を支えているのだった。

「降ろして欲しけりゃ、我々の要求を聞き入れて、これまで私が言ってきた事は全部嘘でしたって公然の場で宣言するんだな!えっ、どうなんだ!」

髪を掴んで百合子の顔を引っ張り上げながら黒坂が怒鳴りつける。

「そ、そんな事嫌よ、絶対に出来ないわーっ!」

黒坂を睨み返しながら百合子が叫んだ。部下の男が鞭をかまえて振り下ろそうとするのを黒坂は制止する。くわえていたタバコを灰皿でもみ消して百合子の背後に回ると目の下で揺れている肉付きの良いヒップを鷲掴みにして左右に押し広げた。

「ひーっ、な、何するのーっ!」

百合子が狼狽して思わず声をあげる。

「ふふふ・・・こうして、けつの穴もオマンコも晒け出しときながら何時までも強がってんじゃないよ!これから、たっぷりこの穴使って楽しんでやるからな!せいぜい強情張り続けんだな!」

そう言うと黒坂はすべて心得ている部下に目配せした。やがて大きな漏斗と缶ビールを持ってきた部下が黒坂に手渡した。

「ふふふ・・・、これからが地獄だぜ!」

百合子の肛門に漏斗の先端が突っ込まれた。10pはあるかと思われる漏斗の嘴がめりめりと音を立てるかのように百合子の肛門の中に情け容赦なく押し込まれていく。

「ぎゃーーーっ!」

凄まじい百合子の悲鳴が響き渡った。

「ひーっ!痛いわー!お願いやめてーっ!馬鹿な事しないでーっ!」

狂ったように頭を振り立てながら泣きわめく百合子の姿を楽しそうに見下ろしながら今度は缶ビールを開けるとドクドクと漏斗に注ぎ込んでいった。腸内に入ってくる冷たい液体の異様な感触に百合子の更なるけたたましい悲鳴が途切れることなく続く。

「どうだ、けつの穴で飲むビールの味は?」

悶え苦しむ百合子の姿を冷酷な笑みを浮かべて見つめながら黒坂が尋ねた。腸が焼き付いて溶けてしまうようなビールの刺激に百合子は声にならない喚き声をあげながら逆さ吊りの上半身を激しく、くねらせて身悶えしていたが、やがてぴたりとその動きが止まった。黒坂が髪を掴んで百合子の顔を晒し上げると百合子は白目を剥いて口からは泡を吹きながら失神しているのだった。引き攣るまでに拡げられた内股の筋だけがいつまでもピクピクと痙攣している。


                               *******


百合子が失神から醒めた時、逆さ吊りからは解放され床の上に、ぼろ雑巾のように放り出されていた。相変わらず後ろ手に縛られたままである。体中が痛み床に背を付けるとみみず腫れになった鞭痕が火傷のようにひりひりする。そして鉛を詰め込んだように体が重たかった。目を上げると黒坂達が椅子に腰掛けてビールを飲みながら談笑しており、部屋中にタバコの煙が充満していた。

「ふん、やっとお目覚めのようだな!けつの穴で飲んだビールがそんなに美味かったか?」

百合子が失神から目覚めた事に気づき黒坂が、からかうように声を掛けた。

「どうだ、少しは気が変わったかな?」

「こんな事、私、あなた達を絶対許さないわ!」

百合子は目に涙を浮かべながら最後の気力を振り絞ってきっぱりと答えた。

「ふふふ・・・、さすがは男社会に楯突く大学助教授だけの事はあるな、誉めてやるよ。だがお楽しみは、まだまだこれからだぜ!」

黒坂は椅子から立ち上がり、にやりと笑うと転がっている百合子の側に歩み寄り、その腹の上に足を載せて踏みつけた。

「ぎゃーっ」

百合子の口から悲鳴があがる。先程のビール責めで膨れた腸内が更に圧迫されて焼け付く痛みと共に強烈な便意が沸き起こった。

「ひーっ、やめてーっ、お願いです、ト、トイレに行かせてーっ!」

たまらず黒坂に許しを請う。

「ふん、こっちの言い分は聞かないくせして、トイレにいかせろもあったもんじゃないぜ!」

そう言うと、さらに嬲るようにぐりぐりと踏みつけた足を動かした。

「ひーっ、お願い!もうダメよ、早く、早く行かせてーっ!」

悲痛な百合子の叫びが響き渡る。

「ふふふ・・・そうか、そんなに出したいなら出させてやるよ。ただしオマエなんかにトイレは使わせんぞ。ここで俺達に見られながらヒリだすんだよ。」

そう言って黒坂は部屋の片隅に準備してあったバケツを持ってこさせた。

「な、なんですって、こ、ここで出せとおっしゃるの!ひどいわ、あんまりです!」

百合子は、ぼろぼろ涙を流して泣き出した。

「俺達に楯突くとどんな目に遭わされるか、身をもって覚えとくんだな!」

黒坂が目で合図すると部下の一人が百合子を後ろから抱き上げた。まるで赤ん坊におしっこさせるように百合子の両足を開いた格好で抱え込む。

「いやーっ!」

あまりにも恥ずかしいポーズに百合子は身悶えて逃れようとするが、どうする事も出来ない。

「ふふふ・・・、良い格好だな助教授さんよ、オマンコもけつの穴も丸見えだぜ。さぁ床を汚さないようしっかり狙ってヒリ出すんだぞ!」

拡げられた百合子の股間の前にバケツをあてがうと、その前にしゃがみこんで羞恥で真っ赤になった百合子の顔を意地悪く覗き込む。

「ほーら、美人助教授様が、うんち垂れ流すとこ見せてくださるんだとよ、おい!記念写真もちゃんと撮っとけよ!」

黒坂に声を掛けられて、もう一人の部下の男がポラロイドカメラを構える。

「さー、こっちは準備OKだ、にっこり笑ってヒリ出しな!」

(あぁー、なんて、ひどい人達なの、こんな、こんな姿で見られながらなんて・・!)

歯を食いしばって必死に便意をこらえる百合子だったが、もう限界の時が来ていた。

「いやーっ!お願い!み、見ないでーっ!」

百合子の悲痛な絶叫と同時だった、羞恥の破裂音と共に堰を切ったように肛門から液状の便が噴き出した。いったん収まったかと思うと再び噴き出してくる。更には小水までもが、どうにもならずに勢いよく、バケツをじゃーじゃーと叩いた。その間にもカメラのフラッシュが何度も光る。

「おいおい、だれが小便まで垂れ流せって言ったんだよ!まったく美人助教授も何もあったもんじゃねーなぁ」

黒坂達がげらげら笑いだした。

(あぁー、恥ずかしいわー、このまま死んでしまいたい!)

女として人間として、最も見られたくない姿を黒坂らの目に晒して百合子のプライドも何もかもが粉々に崩れ去って行く。やがて、すべてが終わり男の手で後始末を受けながら極限の羞恥に打ち震えて嗚咽する百合子には、国家権力を前にして、これ以上抵抗する気力は微塵も残っていなかった。

(ふふふ・・・もう一押しで完全に屈服するな。)

ゆっくりと椅子に腰を降ろした黒坂は、今日はこれで何本目かなと考えながらタバコに火を点けた。



                             *******



あちこちに傷の付いた古びた机を間に挟んで黒坂と百合子は椅子に座って対面していた。百合子は今も素っ裸のままである。机の上には先程、撮したばかりの数枚の写真が無造作に放り出されていた。

「なかなか良く撮れてるだろ?」

百合子はちらりと見ただけで、真っ赤になって目を伏せた。

「俺達だって伊達や酔狂でこんな事してるんじゃないんだ。この国の為を思えばこそ、こんな仕事も必要なんでね。」

一息置いて更に続ける。

「そこでだ、あんたさえ決心してくれたら今回の件は無事に収まるんだが、そうじゃないと事はますます面倒になるし、第一、あんたの周囲の人間まで不幸な事態になるかもしれないんだ。」

黒坂は百合子の顔をじっと見つめた。

「あ、あの私は一体どうすれば良いんですか?」

百合子の言葉には連れてこられた時のような気丈さは残っていなかった。

「別に難しい事じゃないさ、ちょっと、この 誓約書にサインして貰えばいいんだよ。」

黒坂は引き出しから一枚の紙を取り出すと百合子の前に差し出した。それに目を通した百合子の顔色がみるみる蒼白になった。

「ば、馬鹿な!こんな誓約書にサインしろとおっしゃるの?酷すぎるわーっ!」

思わず動揺して百合子は黒坂を睨み付けたが、すぐに目を伏せて涙を零した。

(ふふふ・・・俺達の前で糞まで垂れ流したのが、余程こたえたらしい。)

黒坂は心の中でほくそ笑んだ。その書類には百合子が動揺するのも無理はない屈辱的な内容だったのである。

                        誓約書
  私、栗原百合子は○○大学助教授として国家に対し危険思想と受け取られても仕方のない
啓蒙を社会にまき散らしました事を心より深くお詫び致します。この啓蒙の元になったのは栗原
百合子の私的な欲望のままに自分勝手に作り上げた何の根拠もない戯言同然の論文からでご
ざいます。この為に多くの方々にご迷惑をお掛けして誠に申し訳ございません。そして私の偽り
の啓蒙によって道を誤る事の無きよう、すべての女性の皆様にお詫びとお願いを申し上げます。
                         以上、
栗原百合子は自らの過ちを深く反省し潔く相当の刑罰を受け入れ罪を償う覚悟である事をここに
誓約し署名致します。


「まぁ、あんたの気持ちも分からんではないがね。どうしてもこれにサインして貰らわんと俺達も困るし、あんた以外の人間まで巻き込む事になるんだよ。杉原由美子って言ったっけ・・・」

百合子が、はっと顔を上げて黒坂を見た。

「な、何故、杉原由美子の名前が出るの、由美ちゃんなら何の関係もないわっ!由美ちゃんまで、どうしようって言うの!」

取り乱した百合子は黒崎に詰め寄った。

「まぁ、まぁ、落ち着きなさい。あんたと違って杉原由美子は保安部のブラックリストには載っちゃいないさ。今の所はね。だが、あんた次第じゃリストに加えられるかもしれないって話だよ。保安部のブラックリストに載った女がどうなるかは、あんたには、もう分かるよな?」

まさに脅迫だった。

(あぁ、なんて卑劣な!で、でも由実ちゃんにまでこんな酷い目に合わせられないわ。)

「わ、分かりましたわっ、その誓約書にサインするわ!」

とうとう血を吐くような思いで百合子は屈服の言葉を吐いた。

(ふふふ・・・やっとその気になったか!)

「そうか、サインする気になってくれたか、これで肩の荷が降りたよ。さて、そうと決まれば今日はお互い疲れた事だし、明日、正式にサインして貰うとしよう。」

黒坂はそう言うと、部下に命じて百合子を留置所へ連れて行くよう指示した。

「あっ、そうそう一つだけ、今晩のうちにやっといて貰いたい事があるんだが。」

席を立ちかけた百合子は怪訝そうに黒坂を見やる。

「あんたに、本心から我々の意向に従うと言う証拠を見せて貰いたいんだ。」

そう言うと机の引き出しから小さな箱を取り出して百合子に手渡した。

「これは、何?」

不思議そうに百合子は受け取った箱を開けてみた。中に入っていた物は剃刀とシェービングクリームだった。

「こ、これは!」

百合子の顔色が、みるみる青ざめた。

「ふふふ・・・あんたが本心から反省しているかどうか試したいんでね。今回の件のお詫びのしるしに明日までにオマンコの毛を一本残らず剃り上げておくんだ!」

「な、なんですって!どこまで酷い事すれば気が済むの!」

悔しさで百合子の目から涙がこぼれ落ちる。

「明日、また俺達に会った時に、あんたのオマンコがつるつるじゃなかったらブラックリストに杉原由美子の名前が載る事になるからな!」

そう言うと楽しそうに笑いながら黒坂は部屋を出ていった。それから百合子は地下の留置場に放り込まれる。

「ちゃんと鏡は用意してあるからオマンコ傷つけないように気をつけな!」

笑いながら男はそう言い残すとガチャリと鍵を掛けて去って行った。暗く静まりかえった留置場に百合子のすすり泣きだけが残った。



                              *******



薄暗い留置所の檻のなかで百合子は、もう涙も枯れ果てて死んだように冷たい床の上に横たわっている。数時間前までは、こんな事になろうとは思っても見なかった百合子である。大学で教え子達に囲まれて楽しく過ごしていた事が随分昔の出来事の様に思えた。いろんな楽しかった思い出が走馬燈のように駆けめぐる。

(どうして、どうして、こんな事に・・・みんな、みんな悪い夢であって欲しい!)

だが、体中の痛みと傷跡が、百合子を現実に引き戻す。底知れぬ絶望と悔しさに涙がにじみでた。痛む体を、かばいながら、ゆっくりと寝返りをうつ。そして、ふと見やった先に有る小さな箱が目に入るとビクッとして視線を逸らした。百合子の脳裏に杉原由美子の、まだ幼さを残す可愛い笑顔が浮かんで来る。

(あぁー、由美ちゃん。)

百合子の目から大粒の涙がぼろぼろ、こぼれ落ちた。

(由美ちゃん、大丈夫よ、あなたには、こんな思いさせないから・・・)

何度も躊躇ったあと、百合子は、そっと小箱に手を伸ばした。震える手で箱の蓋を開ける。薄暗い中、剃刀の先端がキラリと光った。胸のつぶれる思いで、そっと手に取る。留置所の壁際に小さな板鏡が立てかけられていた。這うようにして壁際へ向かい鏡を手にする。檻の中で一番明るいのは廊下の明かりが差し込む正面の鉄格子の側だった。あたりは深と静まりかえって人気は無いが、檻の真ん前で、これから屈辱的な恥毛剃りをしなければならないのかと思うといっそう惨めさに拍車がかかる。しばらく躊躇いの時間が流れ、ようやく覚悟を決めると鉄格子の側へとにじりよって行った。恐る恐る廊下に目をやり人気の無いのを確認しながら、差し込む明かりが股間に当たるよう鏡を床の上に置くと、泣きたくなる位の羞恥を押し殺してその上に跨った。鏡に映る性器や肛門が、ひどくグロテスクに感じられて思わず目を背けたくなるのを必死にこらえながらシェービングクリームの泡を手に取り自分の恥部に塗りつけていく。百合子は思わずその冷たい感触に身震いした。屈辱的な格好で我と我が身の恥毛を剃らねばならい自分が惨めでならない。どうしてこんな事までしなくてはならないのか、悔し涙が頬を濡らす。それでも一本残らず剃り落とさねばならないのだ。屈辱を噛みしめて百合子は剃刀を持つ手を動かし始める。やがて鏡の上には泡に混じって若草のような黒い恥毛がぽたぽたと落ちていった。

(あぁー、惨めだわー!)

強制的に自分で自分の恥毛を剃らされる惨めさに泣きながらも百合子には、それを最後まで続けるしか道は無かったのである。徐々に翳りを失って性器が剥き出しになっていくにつれ、百合子は自分が、もう人間ではなくなっていくような気持ちになる。剃り落としているのは恥毛だけではなく、百合子の人間としての尊厳、人格、プライドのすべてなのだ。鏡に映る翳りを失った性器が自分とはかけ離れた何か別の存在のように感じられる。それは人間の女性器というより動物の牝を思わせた。

(もう、私は人間じゃないんだわ)

そう思うと深い悲しみで胸がいっぱいになった、剃り落とされた恥毛を手のひらに掬い取ってじっと見つめているうちに涙が止めどなく頬を伝ってこぼれ落ちた。



                               *******



一夜が明け、百合子は留置所の檻から連れ出され昨夜と同じ取調室の中に居た。例の黒坂の部下二人に監視されながら百合子は全裸のまま壁際に立たされ、黒坂が来るのを、じっと待っていなければならなかった。両手で乳房と股間を隠し顔をうなだれ微かに震えながら立っている百合子の姿からは、颯爽と大学やマスコミの中で活躍していた大学助教授栗原百合子の面影は完全に失われ、まるで捕らえられて怯える哀れな小動物を思わせた。やがてドアが開き黒坂が入ってきた。百合子の肩がぴくんと震える。

「どうだ、少しは眠れたか?まぁ、その様子を見るとあまり眠れなかったようだな。ところで約束は果たしてくれたろうな?」

百合子は目を伏せたまま、こくりと小さくうなずいた。

(一晩で随分、しおらしくなりやがったな。)

黒坂は心の中でほくそ笑んだ。

「さっそく、その証拠を見せて貰おうか!足を拡げて両手は頭の後ろで組むんだ!」

黒坂の厳しい語気に威圧されて百合子は言われるがままに、おずおずと両足を開いて両手を頭の後ろに回して指を組む。

「もっと大胆に開いて腰を前に突き出すんだよ!」

百合子のはち切れそうな豊満なヒップを平手で思い切り叩いて黒坂は怒鳴りつけた。ぱしーんと乾いた音が部屋中に響き渡る。

「あうーっ!」

痛みと屈辱に百合子の目から涙がにじんだ。

「わかったら、ちゃんと返事するんだよ!」

更に強烈な黒坂の平手打ちが百合子のヒップに炸裂する。

「ひーっ、わ、分かりました。分かりましたからもう打たないでーっ!」

悲痛な叫び声と共に黒坂に哀願しながら百合子は、なお一層両足を拡げて大胆に腰を前方へ突き出す。

(いやーっ、こんな格好、惨めすぎるわーっ!)

つるつるに剃り上げられた恥丘を黒坂の手が、いやらしく撫で回した。

「いやぁーっ!止めてーっ!」

百合子は心の中で悲鳴をあげるが黒坂の手が這い回るままに、じっと屈辱を噛み殺して耐えるしかなかった。

「さーっ、これが○○大学助教授栗原百合子の剥き出しマンコですって大きな声で言ってみな!」

羞恥と屈辱に真っ赤になって打ち震える百合子に追い打ちをかけるような黒坂の残酷な命令が浴びせられる。

「こ、これが○○大学助教授・・栗原・・栗原百合子の剥き出しマンコでございますっ!」

残酷な黒坂に、すっかり怯えきった百合子は逆らうことも出来ずに血を吐く思いで羞恥の言葉を吐いた。

「そんなんじゃ聞こえないなー!もっと大きな声で言い直せ!」

黒坂は百合子の乳首をつまむと思い切り引っ張った。

「あひーっ!、こ、これが○○大学助教授栗原百合子の剥き出しマンコでございますーっ!」

悲鳴と共に再び羞恥の言葉を繰り返す。

「まだ、声が小さい!もう一回!」

黒坂の残酷な指が百合子の乳首をひねりつぶす。

「ひーっ、やめてーっ!こ、これが○○大学助教授栗原百合子の剥き出しマンコでございますーっ!あぁー、もう許してーっ!」

百合子が泣きじゃくりながら哀願する。

「まだまだ、俺がいいって言うまでは、何度でも喉が潰れるまで叫ぶんだよ!」

更に乳首を残酷にいたぶられながら百合子は何度も何度も声が枯れ果てるまで叫ばせられ続けた。

「これが、これが、○○大学助教授栗原百合子の剥き出しマンコでございますーっ!」

何十回もやり直しを命じられ、やっと黒坂の許しが出ると、百合子はその場に崩れ落ちて号泣した。

「こらーっ!誰がしゃがみ込んで言いと言った!」

黒坂は百合子の髪を掴んで顔を上げさせると百合子の頬に激しいビンタを浴びせる。

「あぁーっ!」

よろめきながら立ち上がろうとする百合子の頬に再び激しいビンタが炸裂した。

「ちゃんと返事をしろと言ったろう!」

黒坂が怒鳴りつける。

「ひーっ!ご免なさい、お願いだから、もうぶたないでーっ!」

泣きじゃくりながら百合子は立ち上がると自ら股を拡げて腰を突き出し両手を頭の後ろで組んだ。

「どうだ、これで少しは自分の犯した罪の重さを思い知ったか!」

黒坂の怒声が百合子の耳に突き刺さる。

「は、はい、良くわかりました。」

百合子は残酷な黒坂に対しすっかり卑屈になって、どんな理不尽な言葉にも、もう抗う事は出来ないのだと思い知らされた。

「それじゃあ、自分の罪を認めるんだな!」

「はい、認めます。」

無念の涙が頬を伝う。

「ふふふ・・・やっとその言葉が出たな。これで栗原百合子、オマエは危険思想をふりまいた罪で正式に反国家思想取締法違反犯罪人として裁かれる事になるぞ。最高刑は死刑だ、覚悟しとくんだな。」

黒坂が冷たく重々しい声で百合子に告げた。

(あぁ、なんて事に、私が、私が死刑になるなんて・・・嘘よ、嘘だわーっ!)

百合子は心の中で哀しく叫び声をあげた。屈辱的なポーズで立ったままの百合子の体が、がくがく震え出す。そんな百合子の胸中を見透かしたように黒坂が言葉を続けた。

「まぁ、死刑になるかどうか決定するのは、まだまだ先の話だ。今日の午後にもオマエは反国家犯罪者専用の特別女囚収容所に送られる事になるだろう。処分の決定が出るまで、そこで過ごす事になるんだよ。それが半年先か一年先か、あるいは5年10年先かは俺にも分からんがね。ふふふ・・・これからの収容所暮らしに較べると此処は天国に思えるだろうよ。せいぜい覚悟しとくんだな!」

百合子の頭の中は真っ白になった、自らを否定する宣言書にサインさえすれば最悪の場合、大学の職を失い、世間に二度と受け入れられなくなっても、とにかく此処から出る事は出来るだろう、今は、ただそれだけで良いと思っていた。それが、それが・・・すーっと気が遠くなって、そのまま崩れるように床に倒れ込んだ。

「収容所へ搬送する準備が整うまで檻の中に放り込んどけ。」

部下にそう言い残すと、黒坂は取調室を後にして、ゆっくりと廊下を歩き出す。歩きながら百合子が、これから辿る事になる生き地獄を思い描いていた。

(29歳か、たとえ死刑にならなくても、生きてあそこを出る事はあるまいよ。)

その日の午後、保安部の建物から一台のトラックが出て行った。荷台には鉄の足枷と手錠を付けられた全裸の百合子が家畜のように繋がれている。バスや車がいつもと変わらぬ日常を乗せて行き交う街中を、トラックは、一路、収容所へと向かって走り続けた。




戻る